そう言うなり、勢いよくユウヤの隣に座り、さらにそのまま膝の上に頭を乗せて寝転がってきた。小さな体が、まるでそこが定位置かのように心地よさそうにフィットする。
「昨日は睨んできてたのに、今日は甘えてくるんだなー?」
ユウヤが少しからかうように言うと、ミーシャはむぅっと頬を膨らませた。口を尖らせて、不満げな表情を浮かべる。
「だってー……知らない人が、勝手にわたしの家に入ってたんだもんっ」
その言葉に、ユウヤはふと表情を和らげた。
(……そりゃそうだよな。両親を亡くして、家を追い出されて……大切な思い出の家に場所に、知らない奴がいたら、そりゃ不快な思いもするよな)
ユウヤは、ミーシャの気持ちを改めて理解した。彼女の中にある寂しさや不安が、少しずつ言葉になって現れてきているのだと。
「……ごめんな。驚かせたよな」
ぽつりとそう言うと、ミーシャは小さく首を振った。
「ううん。今は……ユウちゃんがいて、よかったって思ってるよ」
その声は、どこかくすぐったくなるような優しさを含んでいた。
「そりゃ……睨みたくもなるよな」
ユウヤが優しく言葉をかけると、ミーシャは少しだけ視線を逸らし、照れたように笑った。ネコ耳がぴくりと動き、ほんのりと赤く染まっているのがわかる。
「ごめんね~? でも……ユウちゃんなら、住んでもいいよー」
その言葉は、まるで許しと歓迎を一緒に包んだような、柔らかい響きだった。
「そっか……じゃあ、一緒に住もうな」
ユウヤが微笑みながらそう返すと、ミーシャの顔がぱっと明るくなった。
「うんっ♪ 一緒に住むぅー♪」
ミーシャは嬉しそうに笑いながら、ユウヤの膝の上でくるりと体を丸めた。まるで、ようやく安心できる場所を見つけた子猫のように。
その小さな背中を見つめながら、ユウヤは心の中でそっと誓った。
(もう、ひとりにはさせない)
膝枕をしていたミーシャが、俺の背中に腕を回してきた。お腹に抱き着いてきたので、ミーシャのサラサラの銀髪が俺の目の前に来たので頭を撫でると癒やされた。その温かい感触に、心が和む。
「はぅ……♡ひさしぶりに頭をなでられたぁー♪あぅ……みみだめぇ〜♡くすぐったぃ……んっ……キャハハっ♪」
ミーシャは、ユウヤに頭を撫でられて、気持ちよさそうに声を上げた。
「ごめん。獣人の人と仲良くしたの初めてで……耳は触っちゃダメなんだな。覚えておくな……」
ユウヤは、ミーシャの反応に少し驚き、謝罪した。
「ううん。べつに……んっ……ユウちゃんには……いいけど、……ちょっとくすぐったいのぉっ。……もっと、なでなでしてほしい、かな……」
ユウヤの言葉に、ミーシャはふっと肩をすくめるように身を縮めた。 頬に朱が差し、伏し目がちに視線を泳がせながら、 どこか甘えるような声音で、恥ずかしそうに返事を返す。 その表情には、照れと嬉しさがまざっていた。
初めて獣人の子と触れ合っているので、耳が気になるのは仕方ないだろ……。
なるべく触らないように頭を撫でていると、安心したのか寝息が聞こえてきた。昨日は、夜遅くまで起きてたしな……しばらく寝ているミーシャの頭を撫でて起きるのを待っていた。
「ふぁぁ〜……ユウちゃん、おはよぉ〜……」
ミーシャが目をこすりながら、のんびりとした声で挨拶してきた。まだ眠たそうな瞳がぱちぱちと瞬き、ネコ耳もふにゃりと垂れている。
「よく寝てたなぁ」
ユウヤが笑いながら声をかけると、ミーシャはユウヤの膝の上でくるりと丸まりながら、えへへと照れたように笑った。
「えへへ……気持ちよくて……つい、ねちゃったぁー」
その声はどこか甘えているようで、ユウヤの胸にほんのりと温かさが広がる。
「俺は、そろそろ友達を呼んでくるな」
ユウヤが立ち上がりながらそう言うと、ミーシャは小さく首を傾げた。
「あぁ〜、きのう一緒にいた子?」
「そうそう。アリアっていうんだ」
「わかったぁ……」
ミーシャは、素直に頷いた。まだ眠気の残る顔で、けれどユウヤの言葉をしっかりと受け止めている。その様子に、ユウヤは思わず微笑んだ。
森が近いこともあり、念のために家の周囲に簡易結界を張ってから、ユウヤは転移魔法で村へと向かった。目的は、アリアを迎えに行くこと。
転移の光が収まると、すでに待ち合わせ場所にアリアの姿があった。「アリア、早いな〜」
ユウヤが声をかけると、アリアは少し照れたように笑った。
「えへへ……楽しみで、早く来ちゃった」
その笑顔は、どこか無邪気で、けれどどこか期待に満ちていた。
「……あのさ」
ユウヤは、少し言いにくそうに前置きしながら、ミーシャのことを話し始めた。彼女の境遇、家族を失ったこと、そして今の生活のこと――。
アリアは、いつものような軽い反応を見せることなく、静かに耳を傾けていた。話が進むにつれ、その表情は徐々に曇り、やがて目元が潤んでいく。
「ふぅん……」
小さく息を吐いたアリアの声は、どこか震えていた。
「そっか……うん。わかった。それは……仕方ないよね。可哀想だね……」
森に入って間もなく、アリアが目を輝かせて声を上げた。「えっ!? わぁ〜すごーい! ここ、薬草いっぱいあるよ!」 地面にしゃがみ込み、手際よく葉を選びながら、アリアは興奮気味に薬草を摘み取っていく。その目は真剣そのもので、まるで宝探しをしているかのようだった。「ん? アリアちゃん、なにをよろこんでるのー?」 ミーシャは、アリアの反応に首をかしげた。大きな青い瞳がぱちぱちと瞬き、表情には純粋な疑問が浮かんでいる。「これね、ポーションの材料になる薬草なんだよ。ちゃんとしたのを見つけるのって、けっこう大変なの。でも、ここはすごく質がいいのがたくさん生えてるの!」 アリアは、ミーシャに葉の形や色を見せながら、嬉しそうに説明した。「へぇ〜……すごいねぇ。アリアちゃん、くわしいんだね!」「えへへ、ありがと♪ ミーシャちゃんも、これ見て。葉っぱの先がちょっと丸くなってるのが、いい薬草のしるしなんだよ」「ほんとだ〜! これ、そう?」「うん、それそれ! 上手だよ、ミーシャちゃん!」 ふたりはすっかり打ち解けた様子で、楽しそうに薬草を探し始めた。その様子を、ユウヤは少し離れた場所から見守っていた。(……なんか、いい感じだな) 森の中に響く笑い声が、静かな木々の間を心地よく揺らしていた。♢チート級の討伐と隠しきれない能力 アリアが薬草を見つけて嬉しそうにしていると、ミーシャが不思議そうな顔で首を傾げ、大きな瞳でじっとアリアを見つめてきた。「えっとね、この葉っぱをね、わたしが集めてるんだー」 アリアがにこやかに説明すると、ミーシャの目がぱっと輝いた。新しいことを知る喜びに満ちた表情で、尻尾がふわふわと揺れている。「そうなんだー! わたしも手伝うー!」 ミーシャは嬉しそうに声を上げ、アリアの隣にしゃがみ込んだ。その様子はまるで、姉の真似をする妹のようだった。「アリアが喜ぶからって、一人で森に入って薬草を採
その言葉には、心からの同情と、ミーシャへの深い思いやりが込められていた。 アリアの優しさが、静かにユウヤの胸に染み込んでいく。「……ありがとう、アリア。」 ユウヤは、彼女が理解してくれたことに安堵し、そっと微笑むと、転移魔法を発動させて家へと戻った。 ──すると。「ユウちゃーんっ!」 玄関先に現れたユウヤに、笑顔いっぱいのミーシャが勢いよく駆け寄ってくる。 その姿を見たアリアも、ぱっと表情を明るくし、まるで反射するようにミーシャのもとへ駆け出した。 そして、ためらいもなくミーシャの手をぎゅっと握る。「わぁっ!? え? なに……?」 ミーシャは突然のことに戸惑い、目をぱちくりとさせながらアリアの顔をじっと見つめた。「ミーシャちゃん、わたしが一緒にいてあげるからね。」 アリアは、優しく微笑みながら語りかける。 その手は、ミーシャの小さな手をそっと包み込むように握っていた。「え? あ、うん……ありがと〜?」 ミーシャは戸惑いながらも、アリアのまっすぐな優しさに押されるように、少し照れたような笑顔で返事をした。 そして、ちらりとユウヤの方を見つめる。 その視線には、どこか安心と、ほんの少しの照れが混ざっていた。 ユウヤはその様子を見て、静かに息を吐いた。 ──このふたりなら、きっと大丈夫だ。(あ、そういえば……紹介してなかったな)「こっちは、俺のパーティメンバーのアリアだ」 ユウヤがそう紹介すると、ミーシャは少し緊張した面持ちで、ぺこりと小さく頭を下げた。ネコ耳がぴくりと揺れ、どこか落ち着かない様子が伝わってくる。「アリアちゃん……よろしく……」 その声はかすかに震えていたが、ミーシャなりに精一杯の挨拶だった。(あれ……? ミーシャが急に大人しくなってる…&he
そう言うなり、勢いよくユウヤの隣に座り、さらにそのまま膝の上に頭を乗せて寝転がってきた。小さな体が、まるでそこが定位置かのように心地よさそうにフィットする。「昨日は睨んできてたのに、今日は甘えてくるんだなー?」 ユウヤが少しからかうように言うと、ミーシャはむぅっと頬を膨らませた。口を尖らせて、不満げな表情を浮かべる。「だってー……知らない人が、勝手にわたしの家に入ってたんだもんっ」 その言葉に、ユウヤはふと表情を和らげた。(……そりゃそうだよな。両親を亡くして、家を追い出されて……大切な思い出の家に場所に、知らない奴がいたら、そりゃ不快な思いもするよな) ユウヤは、ミーシャの気持ちを改めて理解した。彼女の中にある寂しさや不安が、少しずつ言葉になって現れてきているのだと。「……ごめんな。驚かせたよな」 ぽつりとそう言うと、ミーシャは小さく首を振った。「ううん。今は……ユウちゃんがいて、よかったって思ってるよ」 その声は、どこかくすぐったくなるような優しさを含んでいた。「そりゃ……睨みたくもなるよな」 ユウヤが優しく言葉をかけると、ミーシャは少しだけ視線を逸らし、照れたように笑った。ネコ耳がぴくりと動き、ほんのりと赤く染まっているのがわかる。「ごめんね~? でも……ユウちゃんなら、住んでもいいよー」 その言葉は、まるで許しと歓迎を一緒に包んだような、柔らかい響きだった。「そっか……じゃあ、一緒に住もうな」 ユウヤが微笑みながらそう返すと、ミーシャの顔がぱっと明るくなった。「うんっ♪ 一緒に住むぅー♪」 ミーシャは嬉しそうに笑いながら、ユウヤの膝の上でくるりと体を丸めた。まるで、ようやく安心できる場所を見つけた子猫のように。 その小さな背中を見つ
「わぁ~! 美味しそう~! お肉~♪ お肉~♪」 ミーシャは、焼き上がる肉を見て目を輝かせた。湯気の立ち上るフライパンを覗き込みながら、尻尾をふわふわと揺らしている。その瞳は、まるで星が宿ったようにキラキラと光っていた。「味は……あんまり期待すんなよー」 ユウヤは、少し照れくさそうに肩をすくめながら言った。料理には自信があるわけじゃない。ただ、できる範囲で精一杯やっただけだ。「ん? 美味しいよー♪ ユウちゃん、料理もできるんだ~! すごーい!」 ミーシャは、焼きたての肉を一口頬張ると、満面の笑みでユウヤを見上げた。口元には肉汁がほんのり光り、幸せそうに尻尾をぱたぱたと揺らしている。 その姿を見て、ユウヤの胸の奥がじんわりと温かくなった。自信のなかった料理を、こんなにも嬉しそうに食べてくれるなんて。(おおぉ……俺、意外とやるじゃん。これ……普通に美味いぞ? もしかして、料理の才能あったりして?) そんなことを思いながら、ユウヤは思わず頬を緩めた。ミーシャの言葉が、素直に嬉しかった。「ふふっ、ありがとな」 照れ隠しのように笑いながら、ユウヤはミーシャの皿にもう一切れ肉を乗せた。♢ミーシャとの絆と新たな日常(えっと……臭いはなくなったけど、服がな……) ユウヤは、ミーシャの身なりに目をやった。彼女が着ているのは、くたびれたワンピース。ところどころ破れていて、布地も薄くなっている。肩口や裾には小さな穴が空いていて、見る人によっては妙に刺激的に映るかもしれない。(ボロボロのワンピースじゃ、かわいそうだよな……。昼にこっそり村に戻って、服を買ってくるか。ついでに家にも顔を出して、「しばらく戻れない」って伝えておかないとな) そんなことを考えながら、ユウヤはミーシャに声をかけた。「ミーシャ、今日の予定は?」 ミーシャは首を傾げ、ネ
「わっ……すごいっ! なにこれ~♪ いい匂いになってるっ!」 ミーシャは、自分の体をくるくると見回しながら、目を輝かせた。髪の毛はさらさらと揺れ、耳の先まで嬉しそうにぴくぴくと動いている。その表情の変化はまるで猫のように愛らしく、見ていて飽きることがなかった。「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はユウヤ」 ユウヤは、改めて自己紹介をした。ミーシャは一瞬きょとんとした後、ふわりと笑って答える。「わたしは、ミーシャだよ。えっと……ユウちゃん?」 少し照れたように、けれど嬉しそうに名前を口にする。その頬はほんのりと赤く染まり、耳もぴくりと揺れた。「うん。よろしくな、ミーシャ」「うん♪ よろしくぅ~、ユウちゃん♪」 ミーシャは、満面の笑みでユウヤに返事をした。その笑顔は、まるで長い冬の終わりに咲いた一輪の花のように、あたたかく、まぶしかった。「夜も遅いし、そろそろ寝ないとな。ミーシャの部屋って、どこなんだ?」 ユウヤがそう尋ねると、ミーシャはぱっと顔を輝かせ、嬉しそうにユウヤの手をぎゅっと握った。「こっち、こっちぃ~♪ ユウちゃん、ついてきて~♪」 まるで宝物を見せるかのように、ミーシャは軽やかな足取りで家の中を案内してくれた。手を引かれるままに進んだ先には、ふんわりとした雰囲気の、いかにも女の子らしい可愛らしい部屋があった。淡い色合いのカーテンに、ぬいぐるみが並ぶ棚。ベッドも整っていて、すぐにでも眠れそうな状態だった。 ユウヤは念のため、洗浄魔法で部屋全体を清めておいた。埃や放置されていた時の臭いを取り除き、空気まで澄んだように感じられる。「綺麗にしておいたから、そのまま寝られると思うぞ」 そう声をかけると、ミーシャは嬉しそうにベッドに飛び込み、ふかふかの布団に顔をうずめた。そして、幸せそうな表情のまま、ユウヤを見上げて尋ねた。「ありがと。ユウちゃんは、どこで寝るの?」(え? どこでって……どこで寝ればいいん
「お前、普段の飯ってどうしてるんだ?」 何気ない口調で尋ねると、少女の表情がわずかに曇った。箸を持つ手が止まり、視線が皿の上に落ちる。「ん……? えっとぉ……今の家、居づらくて……逃げてきた。夜は、食べてない……」「そっか~」 ユウヤは、それ以上詮索することなく、静かに頷いた。少女の言葉に、どこか胸が締めつけられる。「……家に戻れとか、言わないの?」 少女がぽつりと尋ねた。ユウヤの反応が意外だったのか、少し訝しげな目を向けてくる。「居づらいなら、仕方ないだろ~? 無理して戻っても、ツラいだけだろ?」 いきなり家族を失って、知らない家に放り込まれたら、誰だって戸惑うだろう。ユウヤは、少女の気持ちを思いやった。「お前って、料理はできるのか?」 話題を変えるように尋ねると、少女は小さく首を振った。俯いた耳が、しょんぼりと垂れている。「うぅ……できない……」「掃除は?」「むぅ……やったことない……」「洗濯は?」「はぅぅ……できない……ごめんなさいぃ……」 少女は、できることが何もないことに気づき、申し訳なさそうに肩をすぼめた。その声は、今にも消えてしまいそうにか細い。 ユウヤは、そんな彼女の姿を見て、ふっと笑った。「じゃあ、これから覚えればいいじゃん。ゆっくりでいいからさ」 少女の目が、ぱちりと瞬いた。驚きと、ほんの少しの安堵が、その瞳に浮かんでいた。「は? あ、別にできなくてもいいんだけどさ。なんで謝るんだ?」 ユウヤは、少女の反応に首をかしげた。責めるつもりなんてまったくなかった。ただ、純粋な疑問だった。